経営者には、仕事を取ってくることや、顧客との関係を築くことに長けた人が多くいます。会社を成長させるためには、商品やサービスの魅力を伝え、顧客の信頼を獲得し、売上につなげる力が欠かせません。特に中小・中堅企業では、経営者自身の営業力が会社の成長を支えてきたケースも多いでしょう。
一方で、管理業務や業務システムについては、必ずしも経営者の専門分野とは限りません。
経理、人事、在庫、受注、発注、請求といった管理業務は、営業のように成果が目に見えやすいものではありません。業務システムも、導入した直後に売上が増えるとは限りません。そのため、会社が小さいうちは、経営者の経験や社員の努力によって問題を補うことができます。
しかし、会社の規模が大きくなり、取引や社員が増えるにつれて、管理とシステムの問題は無視できなくなります。情報が担当者ごとに分散する、同じ内容を何度も入力する、数字がすぐに把握できない、特定の社員がいなければ業務が止まる――。こうした問題は、ある日突然発生するというよりも、時間をかけて少しずつ会社の中に蓄積していきます。
では、管理やシステムを専門としてこなかった経営者は、これらにどのように関わればよいのでしょうか。
私がこれまで見てきた経営者は、管理やシステムへの向き合い方という点で、大きく二つの傾向に分けることができます。
一つは、自分の専門外であることを認識し、社内の担当者や外部の専門家に任せる経営者です。ここでは「委任型」と呼ぶことにします。
もう一つは、自ら勉強し、自分なりの考えを持ち、管理の仕組みやシステムの構築にも積極的に関与する経営者です。こちらは「主導型」と呼ぶことにします。
もちろん、すべての経営者が明確にどちらか一方に分かれるわけではありません。経理は担当者に任せる一方で、営業管理システムには細かく関与するなど、分野によって対応を変える経営者もいます。ここでの分類は、あくまで経営者の傾向を整理するためのものです。
「委任型」がうまくいく場合と、そのリスク
委任型の経営者は、自分がすべてを理解し、すべてを決めることには限界があると認識しています。適切な人材に権限を与え、専門的な判断を任せることができれば、経営者は営業や事業戦略など、自分が本来力を注ぐべき仕事に集中できます。
経営感覚と専門知識の両方を備えた人材に巡り合い、適切に役割を分担できれば、非常にバランスのよい経営になります。
ただし、そのような人材は決して多くありません。
管理部門の担当者が、自分の担当業務には詳しくても、会社全体の業務や経営上の優先順位まで理解しているとは限りません。システム会社はシステムには詳しいものの、その会社の業務や将来像まで把握しているわけではありません。また、外部の専門家が提案する内容が、その会社の規模や実情に合っているとも限りません。
任せる相手や任せ方を誤ると、必要以上に複雑な管理制度や、高額で使いにくいシステムが導入されることがあります。経営者が問題に気づいたときには、すでに多くの費用と時間を使ってしまっている場合もあります。
「専門外だから任せる」という判断自体は間違いではありません。問題は、何を、誰に、どこまで任せるのかです。
「主導型」がうまくいく場合と、そのリスク
主導型の経営者は、管理やシステムについても自ら学び、自分なりの結論を出そうとします。会社の現状や目指す方向を最もよく理解している経営者が主導するため、経営方針と管理の仕組みを一致させやすくなります。意思決定が速く、改革を強力に進められることも大きな強みです。
経営者が勘所を押さえて学び、現場や専門家の意見も取り入れながら判断できれば、この方法も非常にうまく機能します。
しかし、管理やシステムの世界は、外から見える以上に奥が深いものです。
一つの部署では効率的に見える仕組みが、別の部署の負担を増やすことがあります。入力作業を減らした結果、必要な管理情報が残らなくなることもあります。目の前のコストを抑えた判断が、数年後の改修費用や属人化を招く場合もあります。
経営者が熱心に勉強しているからこそ、自分の結論に確信を持ちすぎてしまうこともあります。部分的には正しい判断が、会社全体あるいは長期的に見ると、深刻な問題につながる可能性があります。
「自ら学び、自ら判断する」という姿勢も間違いではありません。問題は、自分の知識や経験だけでは見えにくい領域があることを、どのように補うかです。
どちらが正しいか、という話ではありません
委任型と主導型のどちらが優れているのかを決めることが、このシリーズの目的ではありません。
人に任せる経営には、人材選びやチェックの難しさがあります。自ら主導する経営には、判断の偏りや知識の限界というリスクがあります。どちらにも強みがあり、どちらにも陥りやすい失敗があります。
重要なのは、経営者が自分の傾向を理解し、その弱点を補う仕組みを持つことです。
経営者が管理やシステムの専門家になる必要はありません。しかし、すべてを担当者や専門家に任せきることも、自分一人の判断だけで進めることも、会社にとって大きなリスクになり得ます。
経営者は何を理解し、何を決めるべきなのでしょうか。何を社内の人材や外部の専門家に任せるべきなのでしょうか。そして、任せた判断をどのように確認すればよいのでしょうか。
本シリーズでは、「委任型」と「主導型」のそれぞれについて、起こりやすい問題と、そのリスクを抑えるための関わり方を考えていきます。