企業が業務システムを構築する際、目標を達成するためには適切なパッケージの用途を理解し、用途ごとに最適な「型」を意識することが重要です。これを怠ると、過度なカスタマイズが発生し、プロジェクトが頓挫するリスクが高まります。本記事では、実際の事例を基に、業務システム構築時にパッケージの知見がなぜ重要かを解説します。
1. 実例:SFAシステムの失敗事例
ある企業は営業支援パッケージシステム(SFA:Sales Force Automation)を導入し、営業担当者の見積作成業務を効率化しようとしました。しかし、要件定義の打ち合わせ時に出席者から以下のような要望が出ました。
- 「請求書発行機能を追加してほしい」
- 「入金管理もこのシステムで行いたい」
結果として、これらの要望を満たすために膨大なカスタマイズが行われましたが、最終的にシステムは破綻しました。
2. システム破綻の原因:用途の逸脱
営業支援システム(SFA)の役割は「営業活動」や「見積作成」の管理です。しかし、この企業は営業プロセス全体における以下の機能を1つのSFAに詰め込もうとしました。
- 受注、納品、売上計上(本来は販売管理システムの役割)
- 入金管理(本来は債権管理システムの役割)
SFAは「営業フロント業務(営業活動や見積)」に特化しているため、販売管理や債権管理の機能を追加するのは、パッケージの守備範囲を大きく逸脱するものでした。その結果、システムが複雑化し、保守や運用が困難になったのです。
3. パッケージシステムの「型」を理解する重要性
システムには、以下のように特定の役割に応じた「型」が存在します。
- SFA(営業支援システム):営業活動や見積業務をサポート
- 販売管理システム:受注、納品、売上計上を管理
- 債権管理システム:請求書発行や入金管理を担当
これらの型は、商慣習や業務フローが大きく変わらない限り、基本的な役割は変わりません。したがって、これらの用途をふまえた設計が、開発コストの最適化とリスク回避につながります。
4. パッケージ型を無視した場合のリスク
パッケージ型を無視し、目的外の機能を追加すると、次のような問題が発生します。
- 過度なカスタマイズによる複雑化:本来のシステムの安定性が失われ、メンテナンスコストが増加します。
- 保守運用の負担増加:カスタマイズ部分に対応できる人材が限られるため、障害発生時の対応が困難になります。
- 業務の属人化:標準機能に沿わない設計は、特定の社員に依存しやすくなります。
5. システム構築における知見を活用する方法
適切なシステム設計を行うためには、次のポイントを押さえることが重要です。
(1) 用途と型を確認する
- 各パッケージの用途と得意な業務領域を把握し、型に合致した機能を選定します。
(2) 統合ではなく連携を優先する
- 異なる業務システムを1つに統合するのではなく、システム間連携を活用することで、必要な情報をシンプルに共有できます。
(3) 必要な機能を見極める
- 要件定義時に「本当に必要な機能」かを精査し、追加機能はなるべく標準機能で代替できる方法を検討します。
6. システム構築における社内知識の重要性
業務システムの導入・構築を成功させるためには、社内でのIT知識やパッケージシステムに関する理解が重要です。システム担当者や業務部門がパッケージの型を理解していれば、過剰なカスタマイズを防ぎ、プロジェクト全体の進行をスムーズに進めることができます。
また、社内に知識があることで、ベンダーとの協議時に適切な判断ができ、不必要な要望を排除し、適切な運用設計を実現できます。
終わりに
業務システム構築において、パッケージシステムの用途と型を意識することは、プロジェクト成功のカギとなります。システムの守備範囲を理解し、必要な機能を適切な型に合わせて構築することで、開発コストやリスクを抑えつつ、業務効率化を実現しましょう。適切なシステム連携と最適な設計を行うことで、システム運用の負担を軽減し、企業全体の成長を支える基盤を構築することが可能です。